岡山大学の研究が切り拓く革新的ながん治療法の可能性

岡山大学の新たなナノカーボン技術によるがん治療

岡山大学は、pH応答性ナノカーボンを用いた新しいがん治療法の開発に成功しました。この研究は、国際的な共同研究グループと共に進められ、がん細胞への高精度な薬剤供給を目指しています。特に、ナノマテリアルの特性を最大限に活かしたドラッグデリバリーシステム（DDS）が実現しました。

pH応答性ナノカーボンとは？

酸化グラフェンなどのナノマテリアルは、腫瘍特異的なEPR（Enhanced Permeability and Retention）効果を生かして腫瘍部位に集まりやすく、この特性を利用したDDSの開発が進められています。しかし、体内での免疫系による捕捉が課題となっていました。

本研究では、グラフェンの表面にポリグリセロールという親水性の高分子を修飾し、pHに応じて電荷を変えることができるナノマテリアルを開発しました。この技術により、酸性の腫瘍環境で正に帯電し、がん細胞へと効果的に取り込まれることができます。

高精度なドラッグデリバリーへの期待

岡山大学異分野基礎科学研究所のヤジュアン・ゾウ助教と仁科勇太教授が主導するこの研究は、化学と生物学が融合した新たなアプローチを試みています。ナノバイオインターフェースを動的に制御することにより、腫瘍細胞への取り込み効率が飛躍的に向上しました。

マウスを用いた実験では、ナノカーボンが腫瘍に高く集積し、細胞内への取り込みが確認され、副作用をほぼ回避することに成功しました。この研究成果は、将来的に抗がん剤の高精度なドラッグデリバリーへの応用が期待されます。

未来のセラノスティクスへの道

ヤジュアン・ゾウ助教は、ナノ材料のpH応答性をうまく制御できれば、がんの診断と治療を統合した「セラノスティクス」への応用が現実のものになると語っています。この考えは、より高精度な治療のための新しいナノ材料デザインにも新たなヒントを提供することが期待されています。

仁科教授もこの研究を通じて多くの学びがあったと述べており、今後の国際共同研究プロジェクト「IRP C3M」にも期待が寄せられています。